今回は、2011年に公開された映画『ハンナ(HANNA)』をご紹介します。
主演はシアーシャ・ローナン。『つぐない』『レディ・バード』などで知られる演技派女優が、冷酷な暗殺スキルを持つ少女という異色の役を熱演。
監督は『つぐない』『プライドと偏見』のジョー・ライトで、本作ではその繊細な映像美を、容赦のないアクションとサスペンスに昇華させています。
🎬 基本情報|映画『ハンナ(HANNA)』
項目 | 内容 |
---|---|
原題 | Hanna |
公開年 | 2011年 |
日本公開 | 2011年8月27日 |
監督 | ジョー・ライト |
脚本 | セス・ロクヘッド、デヴィッド・ファー |
出演 | シアーシャ・ローナン、ケイト・ブランシェット、エリック・バナ、トム・ホランダー |
ジャンル | アクション/サスペンス/ドラマ |
上映時間 | 約111分 |
音楽 | ケミカル・ブラザーズ(全編オリジナルスコア) |
🧬 あらすじ(ネタバレなし)
フィンランドの雪深い森に、父と2人きりで暮らす少女ハンナ(シアーシャ・ローナン)。
彼女は幼い頃から、元CIAの父エリック(エリック・バナ)に**暗殺技術、語学、サバイバルスキルのすべてを叩き込まれた“戦闘用の子ども”**だった。
ある日、ハンナは自らの意志で世界に出ることを選び、潜伏先を離れる。
だがそれは、自身を執拗に追うCIAのマリッサ(ケイト・ブランシェット)との死闘の始まりを意味していた。
ハンナの出生に秘められた真実とは?
そして彼女が“普通の女の子”として望む未来とは?
🔥 見どころ・魅力を解説
🎯 “戦う少女”דヒューマンドラマ”という異色の融合
『ハンナ』の主人公は、外見は普通の少女。しかしその正体は完璧な殺人兵器として育てられた存在。
このギャップが物語全体に緊張感を生み出しています。
アクションシーンはキレがありながらも、**少女の目を通して見る“世界の新鮮さ”**が同時に描かれており、単なるバトル映画にとどまりません。
特に、旅先で出会った家族と過ごすシーンでは、「初めて友だちができた」「電化製品に驚く」など、彼女の無垢な一面が静かに胸を打ちます。
🧠 スタイリッシュな映像とケミカル・ブラザーズの音楽
ジョー・ライト監督らしく、カメラワークと色彩の使い方が独特で、まるでアートフィルムのような趣もあります。
また、音楽を手掛けたのは世界的エレクトロデュオ「ケミカル・ブラザーズ」。
彼らのビートがアクションと融合することで、視覚・聴覚ともに刺激的。特に地下施設の追跡シーンは、サウンドと動きが完璧にシンクロし、映像体験としても非常に高い完成度を誇ります。
🧩 伏線とテーマ性も深い
『ハンナ』は単なるサバイバル映画ではありません。
彼女が「なぜ生まれたのか」「なぜ狙われるのか」というミステリー要素もあり、終盤には衝撃の真相が明かされます。
また、「人間の本質は環境か、遺伝か」という倫理的なテーマにも踏み込んでおり、観た後にも考えさせられる内容です。
🎥 評価まとめ(5段階)
項目 | 評価 |
---|---|
アクション | ★★★★☆(洗練された格闘演出) |
ストーリー | ★★★★☆(倫理性とドラマの融合) |
映像美 | ★★★★★(芸術的なカメラワーク) |
音楽・音響 | ★★★★★(ケミカルブラザーズ最高) |
感情の余韻 | ★★★★☆(孤独と成長の物語) |
📝 まとめの感想|「生きる」ことの意味を知る少女が世界と出会う瞬間──アクションと哲学が交差する新感覚映画
『ハンナ』は、単なる“戦う少女のアクション映画”ではありません。
それは“感情のない兵器”として育てられた少女が、初めて外の世界に触れ、「人間としての自分とは何か」を模索していく、美しくも哀しい成長譚です。
ハンナは生まれてからずっと、冷たい森の中で父と2人だけで生き、外の世界を知らずに過ごしてきました。
彼女の知識は本や訓練で得たもので、実際の“感情”や“他人との関係”を知る機会がなかったのです。
そんな彼女が、自らの意志で外の世界へと旅立ち、出会い、拒絶され、笑い、驚き、涙を流す。
その一つひとつの体験が、まるで幼児が初めて世界を理解するようなピュアさと、
一方で恐ろしいまでの戦闘能力を持つ“異常さ”が交差し、強烈なコントラストを生み出しています。
とりわけ印象的なのは、旅の途中で出会う家族との交流シーン。
ハンナは彼らの温かさに触れながらも、自分がその輪の中には“決して入れない”ことを直感します。
それは、彼女が「普通の子」としての人生を奪われて育ってきたから。
彼女の孤独は、“強さ”と引き換えに得た代償なのです。
また、音楽と映像の融合は極めて高いレベルにあります。
ケミカル・ブラザーズのエレクトロサウンドは、ハンナの感情や緊張を音で表現するかのように脈動し、
カメラワークはその不安定さや抑えきれない衝動をなぞるように揺れ動きます。
観客の五感に直接訴える演出が、映像体験としての没入感を高めているのです。
そしてクライマックスで明かされる、ハンナの“出生の秘密”。
ここで浮き彫りになるのは、「人間は、生まれか育ちか?」という倫理的問いです。
遺伝的に“優秀”に設計された存在が、本当に幸福になれるのか?
感情を排除して育った者が、人間らしい人生を送れるのか?
その答えを観客に突きつける構成は、まさにアートと哲学を内包したアクション映画の進化形だと言えるでしょう。
そして、ラストシーン。
ハンナはとても印象的な一言を口にします(ここでは伏せます)。
それはまさに、彼女が「何者であるか」を受け入れ、
これから“人間”として歩み出すことを決意した瞬間でもあります。
『ハンナ』は、表面上はスパイ×逃走劇というスリリングな展開ながら、
その内面には深い人間哲学と孤独な少女の成長物語が詰まっています。
アクション映画として楽しむもよし。
ヒューマンドラマとしてじっくり味わうもよし。
音と映像の芸術作品として堪能するもよし。
本作は、一度観るだけで終わらない“多層的な魅力”を持つ異色作として、
映画好きには強くおすすめしたい1本です。
コメント