【映画レビュー】『15時17分、パリ行き』|テロと向き合った“素人”たちの真実──クリント・イーストウッドの挑戦作

ストーリー

今回ご紹介するのは、2018年公開の『15時17分、パリ行き』。
これは、2015年に実際に起きた「タリス銃乱射事件」を題材にした、**リアルすぎる“実話映画”**です。

監督は名匠クリント・イーストウッド。
そして驚くべきは、主演の3人が実際の事件の当事者本人たちだということ。
演技経験ゼロの彼らが、命がけで“再現”するという、極めて異色かつ挑戦的な映画です。


🎬 基本情報|映画『15時17分、パリ行き』

項目内容
原題The 15:17 to Paris
公開年2018年
監督クリント・イーストウッド
脚本ドロシー・ブリスカル(原作:当事者3人による回顧録)
出演アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン(本人役)
上映時間94分
ジャンル実録ドラマ/伝記/サスペンス
原作“The 15:17 to Paris: The True Story of a Terrorist, a Train, and Three American Heroes”

✈️ あらすじ(ネタバレなし)

2015年8月、アムステルダム発パリ行きの高速列車「タリス」に、1人の武装テロリストが乗車。
乗客を銃撃しようとしたその瞬間、立ち上がったのは、偶然乗り合わせていたアメリカ人3人の若者だった――。

本作は、この「タリス銃乱射事件」を題材に、
彼らの子ども時代、軍人としての訓練、旅の道中、そして事件当日までを、ドキュメントタッチで描いていきます。


🎥 映画レビュー|リアリズムと演出のギリギリの攻防

👥 “素人の英雄”が自分自身を演じるという試み

この映画最大の特徴は、主人公たち本人が、本人役を演じているという点。
演技ではなく、“記憶の再現”によって物語が進むスタイルは、他に類を見ません。

彼らの演技は、プロの俳優とは一線を画しますが、それがむしろドキュメンタリー以上の臨場感をもたらしています。
セリフも演出も非常に自然体。作られたドラマではなく、“現実そのもの”を見ているような不思議な感覚に陥ります。


🕰 日常描写の比重が重い構成

事件そのものの再現はラスト20分ほど。
それまでの大部分は、彼らの子ども時代、軍での経験、旅の過程に割かれています。

一見、冗長に感じられるかもしれませんが、これは「普通の人がどのようにして“その瞬間”に立ち向かえる力を得たのか」を描くための重要なパート。
日常の延長線にこそ、真のヒーローがいるというイーストウッドのメッセージが込められています。


🔥 クライマックスの緊張感は圧巻

映画後半、列車内で事件が始まると、緊張感は一気に最高潮へ。
カメラが揺れ、呼吸が荒くなり、目の前で本当にテロが起きているかのような錯覚に襲われます。

スペンサーが銃口に向かって突っ込むシーンは、完全なノンストップ・リアルタイム描写で、ハリウッドのどんなアクションよりも手に汗握る瞬間です。


📝 まとめの感想|「ヒーロー」は特別な人ではない。そこに“居合わせた”者の選択がすべてを変える

『15時17分、パリ行き』は、見る者に多くの問いを投げかけます。
「自分だったら、同じように立ち上がれるか?」
このシンプルで重たい問いに、私たちはどう答えられるでしょうか。

映画として見ると、派手な演出やストーリー展開はないかもしれません。
しかし、むしろそれが現実の重みと緊張感をそのまま届けることに成功しており、
クリント・イーストウッドの「映画は真実を描くべきだ」という信念が強く表れた作品です。

決して派手ではない。けれど、この作品は、
「平凡な人が特別な瞬間に特別なことをする」
という、人間の可能性と尊厳を描いています。

ヒーローとは、勇気とは何か。
日常の中に潜む“選択の瞬間”の重さを、私たちはこの映画で痛感させられるのです。

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