今回は、クリストファー・ノーラン監督が手がけた戦争映画『ダンケルク(Dunkirk)』をレビューします。
「戦争映画」と聞いて想像するような派手なアクションやドラマは、ここにはありません。
しかしその代わりにあるのは、**“極限の臨場感”と“時間の交錯”による新たな映画体験”**です。
🎬 映画『ダンケルク』 基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | ダンケルク(Dunkirk) |
公開年 | 2017年 |
監督・脚本 | クリストファー・ノーラン |
音楽 | ハンス・ジマー |
主演 | フィオン・ホワイトヘッド、トム・ハーディ、キリアン・マーフィ |
ジャンル | 戦争、サスペンス、ヒューマンドラマ |
上映時間 | 約106分 |
⚔️ あらすじ(ネタバレなし)
舞台は1940年、第二次世界大戦下のフランス・ダンケルク。
ドイツ軍に包囲され、海辺に追い詰められた40万人以上の連合軍兵士たち。
彼らを待ち受けるのは死か、それとも脱出か。
本作はこの“ダンケルクの撤退作戦(ダイナモ作戦)”を、
- 陸(若き兵士トミー)
- 海(民間船の船長ミスター・ドーソン)
- 空(イギリス空軍パイロットのファリア)
の3つの視点と異なる時間軸(陸=1週間、海=1日、空=1時間)で描いていきます。
🎯 見どころ①:台詞ではなく“体感”で語る戦争
『ダンケルク』の特徴は、「情報や背景を台詞で説明しない」点。
登場人物の多くは名前も明かされず、心理描写も最低限。
しかしそれによって、私たちは観客ではなく「その場にいる兵士」として物語を体験することになります。
逃げ場のない浜辺、音だけで迫る戦闘機、船が沈むときの水の音――
まるで自分がそこにいるような**“息苦しいリアルさ”**が全編にわたって貫かれています。
🎯 見どころ②:時間軸をずらした編集の妙
ノーラン監督らしく、本作でも時間は直線的に進みません。
「陸・海・空」の3つの物語が、それぞれ異なる時間軸で語られ、
終盤に向かって徐々に重なり合っていく。
この構成によって、同じ出来事を別の視点から見直すことができ、
“時間と視点のパズル”を観客が無意識に組み上げていくような快感を味わえます。
🎯 見どころ③:音楽と音響がもたらす緊張感
音楽は、ノーラン作品常連のハンス・ジマー。
本作では「時計のチクタク音」をベースにしたサウンドデザインが多用され、
全編にわたって**「時が尽きる恐怖」**が迫ってきます。
セリフが少ない代わりに、音響と映像で観客の不安と希望を表現する、
まさに“耳でも観る映画”です。
🎯 見どころ④:英雄を描かない勇気
『ダンケルク』は「戦争映画」ですが、ヒーロー映画ではありません。
誰かが敵を倒して勝利する物語ではなく、
ただ「生き延びようとする者たち」の苦闘が描かれます。
勝利の瞬間も、歓喜よりは静かな安堵に包まれ、
“逃げること”こそが勇気であり、希望であるというメッセージが強く響きます。
📝 まとめ:静かな絶望と希望が交錯する、“音の戦争映画”
『ダンケルク』は、台詞や感情を多用せず、**映像と音だけで緊張感を築く“体験型戦争映画”**です。
ノーラン監督はこの作品で、「戦争とは何か?」という答えを一切示しません。
その代わりに彼が提示するのは、
- その場にいる兵士の無力感
- 救助を待つ不安と焦燥
- そして、どんな小さな行動でも人を救えるという事実
です。
英雄の物語ではなく、**“名もなき者たちのサバイバル”**を描いた本作は、
派手さはなくても、観た後に胸を締めつけられるような余韻が残ります。
特に、撤退成功後の新聞を読んだ兵士が「失敗したと思っていた」と語るシーンや、
スピットファイアが燃える中で滑空しながら降り立つ場面は、
戦争のむなしさと誇りが同居する印象的なラストとして、多くの人の記憶に残るでしょう。
音、構成、演出すべてにおいて革新的な『ダンケルク』は、
単なる戦争映画を超えた“映像芸術”といえる一作です。
戦争映画ファンはもちろん、ノーラン作品が好きな方、没入型シネマを体験したい方には強くおすすめしたい傑作です。
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