今回は、2019年公開の衝撃作、ジョーダン・ピール監督の**『アス(Us)』**をレビューします。
本作は、ホラーの形を借りた社会風刺と心理スリラー。
「一番怖いのは、他人じゃない。自分自身かもしれない」
そんな不気味なテーマを、シンボリックかつエンタメ性豊かに描いた1本です。
🎬 映画『アス』 基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
タイトル | アス(Us) |
公開年 | 2019年 |
監督・脚本 | ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』) |
主演 | ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク |
ジャンル | ホラー、スリラー、サイコロジカル |
上映時間 | 約116分 |
配信 | Amazon Prime、Netflixなど(2025年6月時点) |
🧠 あらすじ(ネタバレなし)
アデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、夫と2人の子どもとともに、かつて幼い頃にトラウマを抱えた海辺の家を訪れます。
平穏なバカンスのはずが、ある夜、自分たちと**そっくりな“影の家族”**が現れ、家族を襲撃。
「これは一体何なのか?」「彼らは誰なのか?」
謎が謎を呼ぶ中で、アデレードの過去と、世界の深い秘密が徐々に明らかになっていきます――。
👥 「自分自身が敵」という恐怖
本作で最も象徴的なのは、やはり**“自分と同じ顔をした存在”=テザード(Tethered)**たちの登場です。
彼らは鏡写しのように主人公一家と同じ顔を持ちながら、
- 言葉を発さない
- 動きが奇妙
- しかし意思は明確に「自分たちを取って代わること」
この“影の存在”という設定は、心理学的にいえば「抑圧された自分」「社会的に見ないようにしている側面」の象徴。
つまり、人間が持つ「裏の顔」「もう一人の自分」が形になった存在とも言えます。
🎯 見どころ①:ルピタ・ニョンゴの鬼気迫る二重演技
主演のルピタ・ニョンゴは、アデレードとその“影”の両方を一人二役で演じ分けます。
特に“影の彼女”が放つ低い声、ぎこちない動き、狂気に満ちた目――
まさに身体全体で「もう一人の自分」を表現した怪演です。
これがホラーとしての緊張感を一気に高めています。
🎯 見どころ②:ホラーの裏にある社会風刺
ジョーダン・ピール監督は前作『ゲット・アウト』に続き、ホラーというジャンルを使って社会の矛盾をえぐる名手。
『アス』でも、単なるスリラーではなく、
- 「持つ者」と「持たざる者」
- 社会の上層と底辺
- 私たちが見ようとしない「影」の存在
といったアメリカ社会における格差・差別・無関心を“影”というメタファーで描き出しています。
🎯 見どころ③:シンボリズムと伏線の多さ
本作はとにかく象徴と伏線の宝庫。
- 赤い服と金切りバサミ=革命の象徴
- “Hands Across America”運動の皮肉的引用
- 鏡・地下・うさぎなど、すべてに意味がある
- そしてラストの“どんでん返し”
一度観ただけでは理解できない部分も多く、「観終わってからが本番」と言えるほど、考察のしがいがある作品です。
📝 まとめ:私たちの中にいる「影」とは何か?
『アス』というタイトルは「私たち(Us)」を意味しますが、同時に「U.S.(アメリカ)」も連想させます。
つまり、この物語は私たち自身、あるいはアメリカ社会そのものの姿を映す鏡。
社会の裏側で、見えないところで生きる“もうひとつの存在”。
私たちが無意識に切り捨て、忘れてきた「弱者」「不条理」「抑圧された感情」――
それらが“影”となって暴れ出すとき、誰が本物で、誰が偽物なのか?
ラストに待ち受ける“ひっくり返る真実”は、ホラーでありながら、観る者に強烈な問いを突きつけます。
怖いだけでなく、深く考えさせられる。
エンタメと社会風刺が見事に融合した『アス』は、ジョーダン・ピールという監督の圧倒的な知性とセンスを示す傑作です。
観るタイミングによって、怖さも意味も変わる――そんな“何度でも再視聴できる”作品。
ホラーが苦手でも、ぜひ挑戦してほしい一本です。
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