「自分の体は、自分のものなのか」
そんな問いを突きつけてくる映画が、『あのこと(L’Événement)』です。
中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台に、若く聡明な大学生が、“産まない選択”をするために孤独に闘うという、実話をもとにした社会派ドラマ。
原作はアニー・エルノーの同名回顧録で、ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(最高賞)も受賞。
今回は、そんな『あのこと』をネタバレなしでレビューしていきます。
「実話映画おすすめ」「女性の自由を描いた骨太な映画が観たい」という方に、強くおすすめしたい1本です。
🎬『あのこと』の基本情報
- 公開年:2021年
- 監督:オードレイ・ディヴァン
- 主演:アナマリア・ヴァルトロメイ
- ジャンル:社会派ドラマ/実話/ヒューマン
- 上映時間:100分
- 受賞歴:第78回ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞受賞
「中絶」というテーマを扱うこと自体が、未だにタブー視されがちな中で、この作品は極限までリアルに、そして静かに描いています。
👩🎓大学生アンヌの妊娠から始まる、孤独な闘い
1963年、フランス。
大学で文学を学ぶ優秀な学生・アンヌは、突然妊娠していることに気づきます。
しかし当時のフランスでは、中絶は法律で禁止されており、もし行えば本人も医師も処罰対象。
つまり、「子どもを産む以外の選択肢」は、命をかける覚悟と引き換えでした。
アンヌが望むのは、自由な未来、教育、そしてキャリア。
でも、妊娠したことでそれら全てが奪われていく…。
そんな不条理と向き合いながら、彼女は一人で“選ぶ自由”を取り戻そうとするのです。
🔍圧倒的にリアルな描写|まるで密着ドキュメンタリー
この映画の最大の特徴は、とにかく“目を背けられないリアルさ”。
- カメラはアンヌの顔をずっと追い続けるように撮影
- 音楽もほとんどなく、日常の「静けさ」が逆に怖い
- 感情を煽る演出はゼロ。でも、それが心に突き刺さる
特に中盤から終盤にかけてのあるシーンは、観ているこちらの呼吸も止まりそうになるほど緊迫しています。
痛みや恐怖が「演技」ではなく「記録」に近く、心の奥にずしんと残るんです。
🎭主演アナマリア・ヴァルトロメイの鬼気迫る演技
主人公アンヌを演じるアナマリア・ヴァルトロメイの演技が、もう本当にすごい。
- 表情だけで、恐怖・怒り・無力感を表現
- セリフよりも「沈黙」が雄弁に語る
- 最後まで涙を見せない強さが、逆に切ない
感情をぶつけるのではなく、押し殺すことで強さを描く――。
この役は彼女でなければ成立しなかったと思わせるほど、説得力に満ちた演技です。
✍️『あのこと』の評価まとめ(世間の声)
「あのこと 評価」で検索すると、以下のような感想が多く見受けられました。
良い評価💡
- 「観ていて苦しい。でも目が離せなかった」
- 「これはすべての女性、そして男性も観るべき映画」
- 「演出が抑制的でリアリティがすごい」
賛否が分かれる点⚠️
- 「テーマが重くてつらい」
- 「中絶シーンがグロテスクすぎるとの声も」
とはいえ、この“つらさ”こそが映画の核心。
快適な映画ではありませんが、「必要な映画」だと感じる人がとても多い印象です。
まとめ|声なき声を映し出す、静かなる衝撃作
『あのこと』は、物語としての派手さや娯楽性とは真逆にある映画ですが、その分だけ観る者の心に確かな痛みと問いを刻む一作です。
特に印象的なのは、アンヌの表情。彼女の静かな決意と恐怖、焦りと覚悟が、言葉以上に雄弁に語ります。誰にも頼れない孤独、他人の無関心、制度の冷たさ──それでも生きるために選び取る行動。これらは決して60年前のフランスだけの話ではなく、現代にも繋がる普遍的なテーマです。
演出は終始淡々としていますが、それがかえってリアルさと緊張感を増幅させています。音楽に頼らず、カメラも至って冷静。だけどだからこそ、私たちは「当事者の視点」でこの出来事を追体験することになるのです。
中絶というテーマはタブー視されがちですが、本作はそれを感情に訴えることなく、冷静に、でも決して冷たくはないまなざしで描ききります。この映画を観終わったあと、しばらく動けなかったという人も多いのではないでしょうか。それは、私たちが「自分の体で経験したかのような実感」を得てしまうからかもしれません。
そして、これは決して“過去の話”ではありません。中絶の権利をめぐる議論は今も世界中で続いており、女性の自由や尊厳が揺らぐ社会にあって、本作は**「選択することの重さと尊さ」**を静かに、でも強く訴えかけています。
あなたがもし、「人として何を大切にするべきか」「自由とは何か」に向き合いたいと思うなら、この映画はまさに観るべき一作です。
“観る勇気”が、あなたの価値観を変えるかもしれません。
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